福岡県福岡市
医療法人 西福岡病院法人スーパーバイザー 馬渡 加夜子様(左手奥)
医事課長 大坂 希美様(右手前)
経理課主任 冨田 路子様(右手真中)
医事課スタッフ 内野 基幸様(右手奥)
郊外の住宅地 老健を併設、他介護保険サービス、健診事業部などを有し地域に根差した病院として運営病床数:238床(急性期45、地域包括ケア45、障害者40、医療療養25、回復期リハビリテーション20、緩和ケア病棟15床、結核48(休床30))
院内で一体になって進めた入院セットの導入
今回は福岡市西区にある西福岡病院の看護部門・事務部門の方が入院セット導入について院内でご発表いただいた内容を共有いただきました。入院セット導入の成功の秘訣は「院内で一体になって導入を進めること」という観点でお話しいただいています。
導入当時は看護部長であり、現在は法人のスーパーバイザーを務める馬渡加夜子様に原稿を執筆いただきました。事務部門の方より具体的なデータを提供いただき、最後に現看護部長の近藤様から今後についてを伺いました。具体的な数字と合わせてご覧ください。
コロナ感染の流行に伴う関心の変化
【入院セット導入のきっかけ】
入院セットのことは、数年前より業者からの案内電話や送られてきた資料でも知っていました。
当時は、大病院で取り入れられているもの、主に関東や関西で導入されていると聞いており、「当院のような郊外の慢性期患者が多い病院にはマッチしないもの」と捉えていました。
入院に際して必要な物は持参することが必然と考えていましたし、自宅や施設で使用している物があるのに患者さんの費用負担はさせたくないとも思っていました。
当院の患者さん達にはニーズはないと勝手に思い込んでいた部分もあったかもしれません。
さらにさかのぼった時期だったと思いますが、病院機能評価の設問に「緊急入院の際に日用品など困らない配慮がされているか」という項目が追加されました。それがきっかけで、独自の取り組みをしたものがあります。
必要最小限の日用品を独自にセットした「緊急入院セット」を病院独自のサービスとして提供しました。できるだけ安く提供するために自ら百円ショップをまわって「歯ブラシセット、コップ、はしやスプーン、タオル、スリッパ」などを買い集めセットを組みました。
病院機能評価受審に応えるための試みでしたので、最初は細々とやっていました。そのうち平均して月に2~3セットは出るようになり、救急車で搬送された患者さんからは「ありがたい」との声、病棟スタッフからは「病院の備品を貸し出す手間が省けた」という声もあって、やっと事務部門に業務として委譲することができました。
それでもしばらくは、当院にとっては、それで十分という考えがありました。
やや入院セットに関心を持ち出したのは、コロナ感染流行後です。面会が禁止となっただけでなく病院に持ち込む衣類等も汚染している可能性があることを理由に街中の病院では「躊躇なく入院セットを導入した」との情報が入ってきました。
その時は、まだ「街中の急性期病院だからできたのかな?」という認識でしたが、2022年に近隣のリハビリ病院から導入に関する案内が届いたことを機に「時代は変わろうとしている。もう一歩、関心を高めなければ立ち遅れるのではないか」と危機感をもった記憶があります。
同じ頃、院内では、ディスポタオルをはじめとした消耗品費が年々増加傾向にあり課題となっていました。少しでも増加率を抑えるために実態調査を行いましたが、「患者さんには気持ちよくケアを受けていただきたいという思い」「スタッフには一生懸命ケアをしようとしてくれていることの感謝の気持ち」が根底にありな
がら、コストのことを思い悩んでいる自分にジレンマを感じていました。
業務の視点では、おむつの管理が現場の負担になっていました。看護補助スタッフから「おむつの請求、納品されたおむつの搬送収納作業、使用枚数のカウント、退院時は未使用品の返品」など大変な作業だと聞いていました。
下痢状態で頻繁に交換をせざるを得なかった状態などを、ご家族に十分に説明できていなかったことでクレームになった事例があり、作業負担だけではなくスタッフの精神的ストレスも加わっていることがわかっていました。
のちに知ったことですが、事務部門でも、おむつに関しては払い出しや請求書作成、返金対応などが負担だという声は出ていたようです。こうして、徐々に病院全体で入院セット導入への関心が高まってきた次第です。
丁寧な比較検討と課題にあった業者選定
【導入までの取り組み】
2022年の秋頃、まずは経理課に対して情報収集の協力を求めました。
九州では、入院セットを取り扱う業者が5~6社あることがわかり、まず3社に絞って、看護部、事務部門の担当者を集めてプレゼンを受けることにしました。
プレゼンを受けた結果、それぞれの業者ごとに特徴があることがわかりましたが、当院と同じようなケアミックス型病院での導入実績が多いリンクウィズと導入を進めることにしました。
リンクウィズの方から、すでに導入している病院への見学の取り計らいをしていただき、看護部、事務部門の複数人で訪問をさせてもらいました。紹介していただいた病院は、日頃から連携を図っている病院だったことに加え、依頼の相談をさせてもらった看護部長はかつての知り合いだったという偶然が重なり、見学時には業者の同行もなく、率直な意見をたくさん伺うことができました。
次に、入院セットの導入を実現するためには経営層の理解を得る必要があり、院内決裁のための稟議書の作成に取り掛かりました。
まず、一つ病棟をモデルに、日用品管理に係る所要時間を算出することにしました。
おむつのカウントや発注、ベッドサイドへの配布、私物の準備や片付け、消耗品の発注の検品や棚入れ、不足物品発生時の家族への連絡、洗濯物の回収、クリーニングの配布など業務は多岐にわたります。調査の結果、月9時間以上要していると想定されました。
また、問題となっていた固定費を算出したところ、おしぼり機器を導入した2013年度と比較すると年間50万円程度であったのが、年々増加し2021年度には約200万円となっていました。
稟議書では、ヒト、モノ、カネの視点で入院セットを導入した際の病院のメリットを示しました。患者さんのメリットとしては「手ぶらで入院、手ぶらで退院」の合言葉を添えて。
院内の決裁がおりた後は、リンクウィズとプランや日額を協議して決定しました。日額の設定については複数の病院の価格を参考にしました。価格は病院によってかなり異なっており、病院の経営方針や強気度が反映されているものと勝手に解釈した上で、自院の状況に応じた適正な設定が望ましいと判断して決めました。
【導入開始時の課題】
開始するにあたって入院受付から入院セットの説明、契約、病棟との連携など一連の流れも整理が必要でしたが、「説明を誰がするか」ということで、入院受付担当となっている医事課スタッフも課題に感じていました。
「入院時は説明することがたくさんあり仕事が増える、病棟看護師ができないのか」「説明している間に次の患者さんを待たせてしまう」など、心配の声が聞こえてきました。
病院の方針であることを懸命に伝え「どうすればできるか」という思考にシフトするまで繰り返し対話したと思います。対話の中で医事課スタッフから説明動画作成の提案がありました。医事課のスタッフは「やりたくない」と言っているのではないことに気付き、「入院時の説明で省略できるものはない」「限られた時間の中でできるのか」「契約に同意してもらえるような説明ができるのか」不安があったのではないかと推測されました。
説明動画作成の提案については、効率的かもしれないが画一的な説明で伝わるのかと疑問があり、結局作成には至りませんでした。ただこのやり取りを通じて誤解が解けたので大前進でした。
結果的には、医事課スタッフに、「単なる営業マインドではなく患者さんにとってのメリットを丁寧に伝えてほしい」とお願いしました。
私達にとっては、入院中・新規入院の患者さんに「どのように説明し理解してもらうか」が難題でしたが、リンクウィズの方が導入前後の約1ヶ月間常駐し対応していただけたことは本当にありがたいことでした。
加えて、スキルをあげるため、自信を持つための提案として「どんな説明が患者さんに伝わりやすいのか」を事務部門で意見交換をすることや、常駐して下さっているリンクウィズスタッフの方の対応を全員が一回は聞くことをすすめました。リンクウィズの方が、この状況を知った上で院内のスタッフの意識を高めるべく協力していただいたことには本当に感謝です。おかげさまで徐々に心配の声を耳にすることがなくなってきました。
導入直後に90%を超える高利用率を実現
【導入後】
2023年4月から導入し、導入直後は当然契約率が気がかりでしたが、導入初月87%、翌月以降は90%程度を維持、2023年度の利用率は平均で91.5%でした。
患者サイド、現場スタッフの満足度は、それぞれどうか。導入3か月後にリンクウィズと連携して利用者を対象にアンケート調査を実施しました。回答数は57件で、満足77%、不満足23%でした。
満足の理由として「入院準備が楽だった」「買い足す必要がないため便利」「家族の負担が軽減されたと思う」「洗濯の手間と荷物の持ち運びがなくなった」「面会時に持ってくる手荷物が減った」「新品が準備されており衛生的」「緊急入院でも手ぶらでよかった」「提供されるものの品質がよい」「病院から依頼される電話が減った」少数ではありましたが「サービス内容に対して料金が安い」という意見もありました。
一方で不満足の理由は、やはり費用負担でした。
アンケート結果を踏まえ、病棟看護長に向けて「費用負担の意見は想定内ではあるけれど私達の関わり方次第で料金以上の価値を提供できるのではないか?」と発信しました。日用品が手元に不足した時、声をあげられる患者さんばかりではありません。当院入院の患者層は80歳以上が大半であり意思表示できない患者さんもたくさんいます。今、患者さんが何を欲しているのかベッドサイドで私達が気づいてあげなければ日用品は棚に置いているだけの物でしかないのです。意思表示が困難な患者への日用品の提供は看護サイドがより気を配る必要があることを伝え、料金に見合ったサービスの提供について検討の場をもちました。やはり、スタッフによっても気づきや対応に個人差があったようです。また、ディスポ商品であるにも関わらず再利用したり茶渋のついたコップを漂白して使うなどの状況もありました。そもそも入院セット導入目的は業務効率だったはずでしたが、当院に根付いた「もったいない」精神の表れかと思うようなこともがあちらこちらに見られました。業者側にとっては喜ばしいことでしょうが・・・改善策として、受け持ち看護師の役割として位置付けた他、いくつかのルールをつくりました。
さらに、患者さんのニーズを再度洗い出し、リンクウィズと協議の上、入院セットのラインナップを変更して満足度の向上を図りました。
【導入後に気付いたこと】
どんなに物品があっても活用しなければ患者満足にはつながりません。個々の患者さんに必要な物、必要とするタイミングは現場のスタッフでなければわからないので、気を配る必要があります。
物品を納入する側と使用する側の連携も重要だと感じました。患者、家族の声を聞きながら定期的に評価し、入院セットの内容を一緒に考え、患者満足度を上げていく姿勢が必要です。
導入6か月を経た時点で、日用品を取り扱う業務に関わりが多いスタッフを対象にアンケート調査を実施しました。入院セット導入で業務負担軽減が期待される項目を列挙し、負担感の軽減について質問しました。看護師、看護補助者、看護師クラーク、計59名から回答があり、軽減した項目は「食事用エプロンの洗濯」「私物の管理」「家族に日用品の依頼をする連絡」「病衣・オムツの枚数チェック」の順でした。意見として、「ケアの物品が欠品することがないので助かる」「肌着が前開きのため更衣をさせやすい」「私物の数や料金など気にせず使用できるので良い」「ロッカーの中がすっきりしている」「退院の際に忘れ物が減った」などが上がりました。
アンケートだけでなく事務部門スタッフにも聞き取り調査を行ったところ、「おむつ、病衣の在庫管理業務がなくなった」「業者と連絡を取り合う頻度が減った」「おむつ、病衣の請求業務がなくなった」などの意見がありました。
【これから導入する病院の方へのアドバイス】
まずは現状の問題点を列挙して「なぜ入院セットを導入するのか?」を整理することをおすすめします。入院セットの導入は一部門だけのものではありませんし、病院全体の共通の課題解決策として認識する必要があります。そのためには関係各部署を集めてしっかりと対話し、一体となって進める必要があります。
入院セットは病院だけで完結するものではありません。管理を業者に委譲したというだけのことではないことを皆で理解し、協働して患者さんにサービスを提供する意識でいること。業者との連携が重要です。
また、自院と同じ規模、機能をもつ入院セットを導入済みの病院を訪問してみてください。業者からのお話だけでなく、実際に利用している方の声は貴重ですし、運用に関しての詳細は
病院スタッフの方が詳しいこともあります。
当院は導入前の検討段階で、各業者を以下の項目で評価しました。ぜひとも比較検討にお役立てください。
- 利用率の実績
- 請求の方法
- コールセンターの有無
- 入院セットの説明方法
- 導入後のフォロー体制
- BCP対策
- 衣類やタオル類などの質感
- 在庫管理の方法
- 緊急入院の対応
【リンクウィズを選んだ理由】
上記の項目を元に評価した結果、私達はリンクウィズで入院セットの導入を進めることを決定しました。
他の評価点としては、プレゼンの際に、お尋ねした疑問点に対して、一番率直に答えてくれたことが印象に残っています。導入時のプレゼンだけでなく、導入後に来られる担当者の方もとても対応のいい方ばかりで、会社としてオープンな姿勢を感じ取れます。
当院と同じ規模のケアミックスの病院での導入実績があり、患者層に対する理解があるとも思えました。見学の候補となる病院をご紹介いただけたのも大きいですね。
患者さん目線で「この取り組みを進める私達の思いに対して一緒に考えていけるのではないか」という直感もあったような気がします。
今後の展望とリンクウィズに対する期待
入院セットの導入は「今までの常識、やり方を疑う」という思考を通じ、慣習的思考からの脱 却ができたとても貴重な体験となりました。
たしかに変化は「面倒なもの」「手間がかかるもの」ではありますが、古い慣習を見直すチャンスでもあります。改善の機会と捉え、皆で取り組むことが出来れば、より良い医療・サービスの提供につながるのではないでしょうか。
入院セットの導入を進める間でも世の中の変化は大きかったですが、コロナ禍を通じてさらに変化が大きくなったと感じます。「オンライン診療」「デジタルサイネージ」「AI問診」など当時は予想もしなかった動きが活発化しています。今後も慣習的な思考を疑うことで、世の中のトレンドを抑えながら、病院一体となって患者サービスの向上を図っていきたいと考えています。
【入院セットの今後の展望について】
最後に、この春から新看護部長となった近藤より、今後の展望をお伝えして締めとしたいと思います。
今まで1年半運用してきましたが、患者・病院スタッフにとっていいものだというのが分かりました。今後はより細かな聞き取り調査や評価を通じて、改善点がないかを継続的に探していきたいです。
利用率に関しては90%を超えているので、ずっと維持していきたいですね。入院セットは看護部全体のものではなく、病院全体となって考えて患者さん、ご家族に対する満足度を向上していきたいです。もちろんリンクウィズに協力いただき、さらなる向上を図れることが理想だと思っていますので、今後ともよい関係を築けることを期待しています。